INTERVIEW#07
文藝春秋編集部S・T
50年たっても色褪せない記事を担当したい 50年たっても色褪せない記事を担当したい

私の入社理由

ジャーナリストの立花隆さんがいた会社へ

就活する前は大学院で哲学を勉強していましたが、到底、研究者としてやっていけそうもなく、将来の進路をどうするべきか、悩んでいました。また、学部と大学院で留年をし、大学受験の際には浪人もしていたので、ストレートで卒業して就活をしている人たちに比べて何年も歳を重ねてしまっている気後れもありました。一時は公務員の道を考えたこともあります。
 そんな時に大学の就職相談課で、「マスコミなら就職の年齢制限が緩い」という話を聞いて、文藝春秋に限らず、出版社や新聞社を出来る限り幅広く受けたのが正直なところです。ただ、以前から、文藝春秋への憧れは抱いていました。それはジャーナリストの立花隆さんが、かつて社員として在籍していたからです。大学時代に立花さんの著作をいくつか読み、政治、科学、歴史など領域に囚われず、縦横無尽に執筆している点に魅力を感じ、そんな立花さんがいた会社はきっと自由な雰囲気だと想像していました。

今の仕事について

現在までの経歴

  1. 2014.03月 入社
  2. 2014.04月 週刊文春編集部
  3. 2019.07月 週刊文春出版部
  4. 2021.07月 文藝春秋編集部(取材当時)

今の仕事について

月刊「文藝春秋」で取材や編集、ネット配信番組の仕事もしています。2023年9月号では「佳子さまからの警告」という皇室記事の取材や、五木寛之さんや北島三郎さんへのインタビュー記事を担当しました。8~10ページほどの記事を自分で書くこともあれば、作家やジャーナリスト、学者の方々から原稿をいただくこともあります。ネット配信番組ではキャスティングから台本作成、当日のスタジオ撮影の立ち会いもします。

現在の仕事のやりがい

あの人に出てほしい」「この二人が対談をすると面白い」と思って出した自分の企画が会議で通り、実際に記事になったときにやりがいを感じます。「文藝春秋」2023年8月号では「日の丸半導体を復活させる」という企画を担当しました。半導体業界を取材して40年の泉谷渉さんという個性的な面白い記者の方がいて、この方を中心に新会社「ラピダス」会長の東哲郎さん、研究者の黒田忠広さんという半導体業界のキーマン3人が一堂に会し、「10年遅れ」と言われる日本の半導体について語り合ったら面白いと思っていました。スケジュールの都合などで実現しない企画は山ほどありますが、この時は本当にご本人たちが出てくれることに。「文藝春秋 電子版」のネット配信番組にも出ていただき、誌面での掲載も実現したので、すべての理想が叶い、やりがいを感じました。

これからの目標や夢

目標は早く仕事をする習性を身に着けることです。原稿のまとめ、メールの返信、資料集め、自分は一拍も二拍も置いてから取り掛かり、後手に回り、締切り間際になって焦ることが多いです。上司や先輩からは「鉄は熱いうちに打て!」「雑誌は一人じゃなくてみんなで作っているんだ」と注意されたこともあります。たしかに、早く動いた方が物事が好転し、良い記事が出来ることが多いので、改めなければいけないと痛感しています。
 一方で月刊「文藝春秋」には、「天皇陛下大いに笑う」や「田中角栄研究」、「高倉健 最期の手記」など、50年たっても色褪せないような記事を発表してきた歴史があるので、できれば自分の発案で、そのような記事を担当したいという夢もあります。

新聞やテレビとは
異なる、
文藝春秋ならではの
ジャーナリズムの強みを
教えてください

硬い政治や経済、事件の記事でも、登場する人物の人間味のあるエピソードを優先して盛り込むことです。新聞やテレビの報道では、むしろ余分な情報として削られることが多いと思います。月刊「文藝春秋」での元NHK記者の岩田明子さんによる連載「安倍晋三秘録」の担当をしていました。岩田さんは安倍元総理に20年以上にわたる密着取材をしていたので、数々のスクープを報じていましたが、その一方で安倍さんの人間味のある話も数多くメモしていました。「睡眠時無呼吸症候群で悩み、CPAPの操作方法を聞かれた話」や「昭恵夫人のアドバイスで前髪に軽くパーマをかけて掻き上げるヘアスタイルに変えた話」「訪米した際、立ち寄ったスーパーでポップコーンを感慨深げに眺めていた話」など細かな情報も入れていただくことで、厚みのある人物像が浮かび上がり、雑誌ならではの読み物としての面白さも増したと思います。

どういう人と一緒に
仕事をしたいですか?

文藝春秋の社員は話好きが多く、仕事の合間に雑談をする場面もよくあります。それを感じたのは、入社一年目に「週刊文春」編集部のセクション班(連載担当の班)に配属された時でした。著名な作家の方々から届いた連載の原稿を誰よりも早く読めて、企画が通れば「今、自分が一番会いたい」芸能人に取材できるなど、この仕事の醍醐味を味わいました。一方で編集部で先輩たちと、夜遅くまでたくさん雑談をしたことも良き思い出として残っています。時にデスクから「いつまでも井戸端会議をやって……」と呆れられたこともありました。先輩と一緒にお酒を飲みながら、明け方まで延々と最近見た支離滅裂な「夢」の話をされたこともあります。一見、無駄な時間に思えますが、それらが企画のアイデアに結びつくことも、なくはないです。仕事の話や愚痴ばかりにならず、時には仕事から離れた雑談で盛り上がれる人と仕事がしたいです。

1週間の仕事の時間配分

オフの1日

家族で出かけたり、子どもと公園に行くことが多いです。最近は千葉にグランピングに行きました。一方で締切が迫ってくると、土日も仕事をやる必要があり、焦りが出てくるので、バランスを取るのが難しいです。

文藝春秋を一言で
表現するなら

華やか

忘れられない一冊

佐藤愛子『血脈』

作家の佐藤紅緑と、作詞家のサトウハチロー、そして佐藤愛子さんの三人を軸に波乱万丈な一族の物語が描かれています。大学受験の頃に読み、圧倒されると同時にエネルギーをもらったのを覚えています。

入社を考える方へのメッセージ

「文藝春秋」と
“私の好奇心”。

就活の際に、出版業界で仕事をするためには「好奇心を持つことが大事だ」とよく言われました。私の場合は好奇心が乏しい方で、読書量も決して多くなかったですし、人と会うのがそれほど好きでもありませんでした。
 ただ、実際に仕事をしてみると分かりますが、取材をする際には、事前にたくさんの資料や本を読んで準備をしてから、取材相手に直接会って話を聞きます。予想もしなかった刺激的な話を聞けて、知識も増えますし、四六時中、取材相手のことを考えるようになり、その世界に没頭する。すると不思議なことに「もっとこの人のことが知りたい」「もっと深い記事にしたい」という欲がどんどん出てきます。
 今の時点で「自分は好奇心旺盛ではない」と気後れしている学生の方がいるようでしたら、入社して環境が変われば、考えも変わると思います。見切りをつけずに、是非、入社試験を受けてほしいです。